業務棚卸しは、現在行っている仕事を洗い出し、内容・頻度・作業時間・担当などを整理して、仕事の実態を把握することです。まず「何を、どのくらい、誰がしているか」を表にします。廃止・効率化・自動化を決めるのは、その後です。
最初から部署の全業務を完璧に書く必要はありません。自分の直近1か月を対象に、今日または今週行った仕事を3件書くところから始められます。以下の記入例と空欄表を使い、分からない情報は「未確認」として残しましょう。
架空例:曖昧な業務メモを一覧表に直す
この記事では、小規模チームの担当Aが、自分の直近1か月の業務を整理する例を使います。関係者との確認で、担当Bの仕事も1件追加します。人物・業務・件数・時間・困りごとは、すべて説明用の架空設定です。一般的な所要時間の目安ではありません。
最初のメモは「月次資料、問い合わせ、会議、備品、データ入力、確認作業」だけでした。これでは、資料を作るのか配るのか、何を確認するのかが分かりません。まず、対象と動作を補います。
| 最初のメモ | 具体化した業務名 |
|---|---|
| 月次資料 | 月次実績を集計し、確認後にチームへ共有する |
| 問い合わせ | 問い合わせ内容を確認して回答する |
| 会議 | 週次会議で進捗を共有し、決定事項を記録する |
| 備品 | 共用備品の在庫を確認する |
| データ入力 | 受け付けた依頼を管理台帳へ登録する |
| 確認作業 | 月次実績の入力漏れと集計値を照合する |
確認作業は、月次資料を共有するまでに担当Aが行う作業でした。この例では「月次実績を集計し、確認後にチームへ共有する」に含め、別の行では数えません。一方、管理台帳への登録は別の依頼で発生するため、独立した業務として残します。
| 業務 | 内容 | 頻度 | 1回の作業時間 | 担当 | 困りごと・未確認 |
|---|---|---|---|---|---|
| 月次実績を集計し、確認後にチームへ共有する | 元データを集め、入力漏れ・集計値を照合して共有する | 月1回 | 約90分(直近1回の概算) | A | 元データ待ちが発生。待った長さは未記録 |
| 問い合わせ内容を確認して回答する | 内容を読み、必要に応じて確認先へ照会し、回答する | 週5〜10件(直近4週間の受信記録) | 1件15〜30分(直近数件の概算) | A | 内容によって確認先が違う。ある1件では回答待ち2日 |
| 週次会議で進捗を共有し、決定事項を記録する | 準備、会議への参加、決定事項の整理 | 週1回 | 60分(直近1回を実測:準備15分・参加30分・整理15分) | A | 前回の記録を探すことがある |
| 共用備品の在庫を確認する | 保管場所を見て残数を記録する | 週1回 | 20分(直近1回を実測) | B | 補充基準が曖昧 |
| 受け付けた依頼を管理台帳へ登録する | 依頼内容を転記し、必要項目を確認する | 依頼の受付時。対象月は12件 | 未測定 | A | 次の3件で作業時間を記録する |
備品確認は、担当Aが行っていると思っていた仕事です。担当Bに確かめて担当欄を直しました。これは関係業務として残し、担当Aの業務量には加えません。担当欄は理想の分担ではなく、現在の実態を書きます。
コピー用の簡易業務棚卸し表
次の6列をコピーし、まず3行を埋めてください。「内容」は業務名だけでは伝わらない範囲を書きます。時間が分からなければ、数字を埋める代わりに「未測定」と書けます。
対象期間:____ 対象者・チーム:____ 記入日:____
| 業務 | 内容 | 頻度 | 1回の作業時間 | 担当 | 困りごと・未確認 |
|---|---|---|---|---|---|
| ____ | ____ | ____ | ____ | ____ | ____ |
| ____ | ____ | ____ | ____ | ____ | ____ |
| ____ | ____ | ____ | ____ | ____ | ____ |
発生条件は頻度欄に、待ちや次の確認は最後の欄に書けば、初回から列を増やさずに整理できます。空欄と「未確認」は区別してください。担当が不明なら「未確認。チーム責任者に確認する」と残します。
業務棚卸しは何のために行うか
業務棚卸しでは、日々の仕事と、ときどき発生する仕事を同じ一覧で見られる状態にします。主に次の確認の材料になります。
- 誰が何をしているか、担当が曖昧な仕事はないか。
- 業務量が特定の人に偏っていないか。
- 一人しか手順を知らない仕事や、引き継ぎ・標準化が必要な仕事はないか。
- 仕事の抜けや、同じ成果物を作る重複がないか。
- 繰り返す手戻りや待ちなど、詳しく調べる改善候補はないか。
ただし、一覧だけで負担や無駄を確定できるわけではありません。仕事の難しさ、責任、繁忙期、成果物の用途も違います。担当Aの問い合わせが多く見えても、担当Bの他の仕事を調べていない段階で、チーム全体の偏りは判断できません。
業務を洗い出す方法
- 対象期間と対象者を決める。例では「担当Aの直近1か月」を中心にします。日常業務を拾う範囲と、年次・条件発生の業務を補足する範囲を分けて考えます。
- 記録から仕事を拾う。カレンダー、送受信メール、タスク一覧、作成・更新した資料を見ます。担当Aは会議予定と問い合わせの受信記録、月次資料、管理台帳をたどります。
- 思い出した仕事もいったん書く。口頭相談、短い確認、準備や片付けなど、記録に残りにくい仕事を補います。この段階では粗いメモで構いません。
- 同じ仕事をまとめる。問い合わせメールが複数あっても、同じ対応なら1行にまとめて件数を記録します。月次資料と、その中の照合を二重に数えないようにします。
- 業務名を具体化する。「何を、どうするか」を書きます。業務名だけでは範囲が曖昧なら、内容欄に開始と終わりを補います。
- 頻度・時間・担当を記録する。回数の根拠や、時間が実測か概算かも添えます。分からない情報は未確認のまま残します。
- 困りごとや待ちを追記する。「大変」ではなく「元データが届かず集計を始められない」のように、止まる状況を書きます。
- 関係者と抜け・担当・範囲を確かめる。担当Bへの確認で備品の担当を直したように、記入者の認識と実態を照合します。
記憶だけで完全な一覧を作ろうとしないことが大切です。記録を見ても分からない仕事は、数日間の作業メモで補います。初回は「確認できた仕事」と「まだ確認する仕事」が分かれれば、次へ進めます。
業務の粒度はどこまで分けるか
粒度とは、1行にまとめる仕事の大きさです。業務棚卸しでは、頻度・時間・担当・困りごとを同じ単位で説明できるかを目安にします。毎回同じ流れで行う仕事は、負担や担当を比較できるまとまりにそろえます。
| 書き方 | 判断 | 理由・直し方 |
|---|---|---|
| チーム運営業務 | 大きすぎる | 月次集計、問い合わせ、会議では頻度も困りごとも違う。別の行にする |
| 月次実績を集計し、確認後にチームへ共有する | この例では比較できる | Aが月1回行い、集計から共有までの作業時間を記録できる |
| Excelを開く/セルをコピーする/メール送信ボタンを押す | 細かすぎる | 月次集計の操作として内容欄や手順書に含める |
月次資料の集計と確認を別の人が担当しているなら、分けて記録する方が比較しやすくなります。同じ担当でも、照合の負担だけを把握したいなら分けられます。その際は、全体の90分と内訳を両方足さないようにします。
WBSは、これから行う案件の仕事を実行・管理できる単位へ階層的に分解するものです。本稿の棚卸しは、現在の定常・非定常業務の実態を一覧にするものです。担当Aの毎月の集計を棚卸しする段階で、新しい仕組みを導入するプロジェクトの作業まで分解する必要はありません。
頻度と作業時間をどう記録するか
頻度は「1回」の単位と期間をそろえる
「毎日」「週1回」「月1回」「年1回」「発生時」などを使います。問い合わせなら1件、月次集計なら1か月分の集計から共有までを1回とし、時間欄も同じ単位で書きます。
「随時」だけでは業務量が分かりません。担当Aの台帳登録なら「依頼の受付時。対象月は12件」とします。件数が分からなければ「依頼の受付時。件数未確認。来週の受付件数を記録する」で構いません。問い合わせの「週5〜10件」も、何を見た数字か分かるように「直近4週間の受信記録」と添えます。
作業時間は、実測・概算・未測定を分ける
| 状態 | 書き方 | 扱い |
|---|---|---|
| 実測 | 20分(直近1回を実測) | 記録した回の時間。毎回20分と断定しない |
| 概算 | 1件15〜30分(直近数件の概算) | おおよその幅。正確な平均値として使わない |
| 未測定 | 未測定。次の3件で記録する | 0分にせず、次に確認する対象を決める |
計測するときは、開始・終了と中断を簡単にメモします。会議の準備や後片付けを含めるかもそろえてください。例の会議60分は、準備15分・参加30分・整理15分を含む担当Aの時間です。チーム全体の負担を調べるなら、他の参加者の時間も別に確認します。
業務量を比べるときは同じ期間へ換算する
回数と時間が分かる仕事は、「対象期間の回数×1回の作業時間」で、その期間の作業時間を整理できます。ただし概算から出した値は概算です。例の問い合わせを4週間で考えると、5〜10件×4週×15〜30分で、約300〜1,200分(約5〜20時間)という広い目安になります。正確な実績ではなく、週ごとの件数と1件の時間の幅を使った換算です。
月次集計の約90分と比較する前に、問い合わせの実際の件数や内容別の時間を確かめる余地があります。年1回の仕事を月平均にすると繁忙時の集中が見えなくなるため、「年1回、○月に発生」と元の頻度も残します。未測定の台帳登録がある以上、この表から担当Aの月間総作業時間は確定できません。
作業時間と待ち時間を混同しない
問い合わせ1件に実際に手を動かした時間が20分でも、他部署の回答を2日待つ場合があります。時間欄へ「2日」と入れると、担当Aが2日間ずっと作業していたように見えてしまいます。
この場合は、作業時間欄に「20分(その1件を実測)」、困りごと欄に「他部署の回答待ち2日」と分けます。照会メールを書く時間や回答を読む時間は作業時間に含め、返信が来るまでの空き時間は待ちとして扱います。上の完成例の15〜30分は概算なので、1件を測っただけで全件の数字を20分に置き換えません。
受付から回答までに要した期間を調べたい場合は、受付・照会・返信・完了の日時を別に記録します。長い待ちがあっても、原因や全体への影響はまだ未確認です。流れのどこが全体を制限しているかを調べる段階では、ボトルネックの見つけ方へ進めます。
定常業務と非定常業務をどう扱うか
毎週の会議や毎月の集計のように繰り返す仕事だけでなく、条件がそろったときに発生する仕事も残します。台帳登録は「依頼を受け付けたとき」に発生する業務です。新人入社時の準備やトラブル時の対応も、現在の担当範囲なら同じ考え方で記録できます。
対象月に発生しなかった年次業務は、年間カレンダーや前年の記録から補足します。「年1回、年度末」「新人入社時。対象月は発生なし」のように書き、対象月の実績と混ぜないでください。月末だけの仕事も、月次集計のように発生時期を補うと集中を確認できます。
過去に一度だけ起き、今後は担当範囲にない特殊案件をすべて並べる必要はありません。繰り返す可能性や現在の担当責任があるかを確かめ、残すか迷うものは「再発時の担当範囲を確認」として保留します。
棚卸ししただけで「不要業務」と決めない
時間が長い、頻度が低い、一人しかできない、手作業である。これらは調べる手がかりにはなりますが、廃止や自動化の理由として十分ではありません。まず次を確かめます。
- 何のために行っているか。
- 誰が成果物を使い、どんな判断や次の仕事に利用しているか。
- なくした場合に何が起こるか。
- 法令・契約・社内ルールなどで必要とされていないか。
担当Aの月次資料に約90分かかっていても、チームがその資料で実績を確認しているなら、時間だけで廃止できません。備品確認の補充基準が曖昧なら、まず基準を確認する必要があります。棚卸し表では、分かった事実と「次に調べること」までを残します。
棚卸し後にやめる・減らす・まとめる候補を選ぶときは、業務削減の判断基準と記入例で、必要性と停止した場合の影響を確認してください。
棚卸し後に何を見るか
初回の一覧ができたら、時間が大きい仕事、同じ内容を複数人が行う仕事、特定の人しかできない仕事、待ちが長い仕事、目的・利用者が不明な仕事、同じミスや手戻りが繰り返す仕事、頻度に比べ準備が重い仕事を探します。どれも確認候補であり、表から自動的に改善対象を決めるものではありません。
担当Aの表なら、次のように「何を変えるか」より先に「何を確かめるか」を決められます。
| 一覧で見えたこと | 次に確かめること |
|---|---|
| 問い合わせの概算時間に幅がある | 内容別の件数・作業時間・確認先を数件記録する |
| 月次資料は元データ待ちがある | 提出予定と実際の到着時刻、共有日への影響を確認する |
| 会議の前回記録を探すことがある | 保存先が分かれているのか、案内が不足しているのかを確認する |
| 備品の補充基準が曖昧 | Bと責任者に、既存ルールと判断者を確認する |
担当交代が必要と分かった仕事は、棚卸し表だけでは渡せません。現在の状態、次の行動、資料の場所などを業務引き継ぎ表へ整理します。発生済みの仕事をどの順で進めるか決めるなら、仕事の優先順位の決め方が次の作業になります。
改善対象を選んだ後は、改善の進め方で望ましい状態・原因の仮説・変更案・測定方法を整理します。未解消の課題を追う課題管理表や、決定済みの変更を進める施策実行計画表は、その段階で使います。案件として変更を進める際に必要な仕事を分けるのがWBSです。
業務棚卸しでよくある失敗
| 失敗 | 直し方 |
|---|---|
| 業務名が大きすぎる | 頻度・担当・困りごとが違う仕事を分ける |
| 操作単位まで細かくする | 一連の仕事へまとめ、操作は必要なら手順書へ移す |
| 記憶だけで作る | 予定、メール、更新資料を見て、記録のない仕事を補う |
| 頻度を「随時」で終える | 発生条件と、分かる期間の件数を書く |
| 未測定の時間を正確な値のように書く | 概算・未測定と明記し、次に記録する対象を決める |
| 待ち時間と作業時間を混ぜる | 実際の作業は時間欄、返信・承認待ちは困りごと欄へ分ける |
| 定常業務だけを書く | 年間予定や条件発生の仕事も確認する |
| 棚卸しと同時に廃止を決める | 目的・利用者・なくした場合の影響を先に確認する |
| 表の項目を増やしすぎる | まず6列で埋め、比較に必要になった項目だけ足す |
| 一度作って更新しない | 担当や手順の変更時に直し、未確認欄を次の見直しで確認する |
まとめ
まず、今日または今週行った仕事を3件だけ書き、「何をする仕事か」「どの頻度か」「1回の作業時間」「担当」を埋めてみてください。時間が分からない行には「未測定。次の3回を記録する」と書けば始められます。次にカレンダーやメールを見て抜けを補い、直近1か月の一覧へ広げましょう。
