RACI(レイシー)とは、仕事ごとに実行する人・結果に最終責任を持つ人・相談する相手・情報を共有する相手を分ける方法です。これを一覧にしたものを、RACI表やRACIチャートと呼びます。
「資料の担当はAさん」と書いても、Aさんが作るだけなのか、内容を決めて配布してよいのかは分かりません。担当者を書いただけでは、責任分担は明確にならないのです。この記事では、社内説明会を準備する小チームの架空例を使い、空欄表から使えるRACI表を1枚作る手順を説明します。
RACIとは
RACIは、次の四つの役割の頭文字です。行に作業や成果物、列に関係者を置き、交わるセルへ記号を書きます。
| 記号 | 意味 | 実務上の役割 |
|---|---|---|
| R | Responsible(実行責任) | 実際に作業を進め、成果物を作る |
| A | Accountable(最終責任・説明責任) | 結果に最終責任を持ち、必要な判断や承認を行う |
| C | Consulted(相談先) | 実行前・判断前に意見や専門情報を提供する |
| I | Informed(共有先) | 必要な進捗・変更・結果を受け取る |
Cは判断に必要な意見をやり取りする相手、Iは情報を受け取る相手です。Iへ知らせたことを、承認を得たこととして扱いません。関与が不要なセルは空欄で構いません。
四つの役割と、作業を行・関係者を列にする基本形は、WHO/TDRのRACI作成資料(英語PDF)でも示されています。以下の手順と説明会の例は、小チームで使うための整理です。
RとAの違い
Rは「誰が作業するか」、Aは「誰が結果を引き受け、最終的に判断するか」です。どちらも日本語では「責任者」と訳されるため、その一語だけで表を書くと混同しやすくなります。
社内説明会の案内資料なら、Rは内容をまとめて原稿を作るAさん、Aは内容を最終確認して配布を承認する課長です。修正するのは誰か、配布してよいと決めるのは誰かを分ければ、原稿ができた後の待ち先も分かります。なお、ここでの「Aさん」は人の呼び名で、RACIの記号Aとは別です。
Aは単に最後に印を押す人ではありません。必要な判断を行い、期限や品質を満たす結果になっているかを引き受ける役割です。Aを上司に置くだけで、Rの作業上の責任がなくなるわけでもありません。
本人が実行し、完了を判断する権限も持っている仕事では、同じ人がRとAを兼ねられます。セルに「R/A」と書きます。ただし、別の人による確認・承認が社内ルールで必要な仕事では、そのルールを優先します。
RACIを使うと何が整理できるか
RACI表を作ると、担当がいない仕事、最終判断者の空白、判断者の重複、相談や共有の過不足を見つけやすくなります。たとえば案内資料にRだけがあれば、「誰が配布を承認するのか」を決める必要があります。
ただし、表は権限や人員を生み出すものではありません。課長が判断できない内容なら、課長をAと書いても仕事は進みません。表で見つかった空白を、関係者との合意や正式な権限の確認によって埋めることが必要です。
RACI表の作り方
1.対象にする仕事・成果物を決める
最初に「何から何までを分担するか」を一文で書きます。今回なら「社内説明会の開催内容を決めてから、当日の進行を終えるまで」です。説明会後の研修運営まで混ぜず、対象外も決めます。
2.行に作業や成果物を書く
「説明会準備」だけでは、資料作成と会場手配の担当を分けられません。「会場を手配する」「案内資料を作り、配布可能な状態にする」のように、終わったかを確認できる単位へ分けます。
作成と承認を別の行にする方法もあります。今回は同じ成果物のRとAを見比べられるよう、資料作成から最終承認までを一行にまとめます。一行の中で判断対象やAが変わるなら、行を分けてください。
3.列に関係者を書く
実行者だけでなく、判断者、相談先、共有先を並べます。今回の列はAさん、Bさん、課長、総務担当です。役職や部署名を使う場合も、実際に誰へ依頼するか分かるようにします。
4.Rを決める
各行について「この仕事を手を動かして進めるのは誰か」を決めます。Rは複数でも構いませんが、「二人で担当」だけでは分担が残ります。担当部分を注記するか、作業を別の行に分けます。
5.Aを決める
「この行の結果に最終責任を持ち、必要な判断をできるのは誰か」を確認し、基本は一行につきAを一人にします。二人の承認が必要なら、承認対象を分けられないか、正式な承認手順と最終責任者は誰かを確認します。
6.必要なCとIを追加する
相談しないと内容や手配を誤る相手をC、変更や完了を知る必要がある相手をIにします。「念のため」で全員を追加せず、何をいつ伝えるかも決めます。CとIがいない行もあって構いません。
7.横方向・縦方向に確認し、本人と合意する
横方向は仕事ごとの空白・重複、縦方向は人ごとの負担や権限を確認します。最後に本人へ、引き受けられるか、判断権限があるかを確かめます。期限や進捗まで管理したい場合は、役割を決めた後に施策実行計画表などへつなげます。RACIだけで日程管理を済ませようとしないことが大切です。
架空例:曖昧な担当表をRACI表に直す
以下はすべて説明用の架空例です。実在の企業・人物や筆者の経験ではありません。Aさんは内容・資料担当、Bさんは会場・連絡・進行担当、課長は説明会の責任者、総務担当は会場利用ルールに詳しい相談先とします。
修正前:担当者名だけでは判断先が分からない
| 作業 | 担当 |
|---|---|
| 案内資料 | Aさん |
| 会場 | Bさん |
| 承認 | 課長 |
この表では、課長が何を承認するのか、会場について誰に相談するのか、確定した内容を誰へ知らせるのかが分かりません。Aさんが資料を作り終えても、いつ配布できるか判断できない状態です。
修正後:社内説明会のRACI表
この例では、課長が開催内容・案内資料・当日の進行に最終責任を持ちます。Bさんには、確定済みの日程・予算・内容の範囲内で、会場手配と案内送信を完了判断する権限があるものとします。範囲外の変更は課長へ相談する前提です。表はコピーして書き換えられます。
| 作業・成果物 | Aさん(内容・資料) | Bさん(手配・連絡・進行) | 課長 | 総務担当 |
|---|---|---|---|---|
| 開催内容・日程を決める | R | C | A | C |
| 会場を手配する | I | R/A | I | C |
| 案内資料を作り、配布可能な状態にする | R | C | A | |
| 承認済みの案内を参加対象者へ送る | I | R/A | I | |
| 当日の進行を行う | C | R | A |
R/Aは実行と最終責任の兼任、空欄はその行で定常的な関与を求めないことを表します。参加対象者は案内の受け手として行名に含め、この準備チームの表では列を省略しています。準備段階から意見を求める代表者がいるなら、その人の列を追加します。
なぜこの割り当てにしたのか
- 開催内容・日程:Aさんが案を作り、課長が決定します。Bさんは準備に必要な時間、総務担当は会場利用条件について、決定前に意見を出します。
- 会場手配:Bさんが総務担当に利用条件を確認して予約します。決められた範囲内ではBさんが完了を判断できるためR/Aです。確定した会場はAさんと課長へ知らせます。
- 案内資料:Aさんが原稿を作り、Bさんが会場・連絡事項を確認し、課長が最終承認します。総務担当には改めて確認する事項がないため空欄です。
- 案内送信:Bさんが承認済みの内容を対象者へ送り、送信完了を判断します。資料を書き換える権限まで与えた意味ではありません。
- 当日の進行:Bさんが進行し、内容上の質問はAさんに相談します。課長は全体の結果を引き受け、予定変更が必要なときに判断します。
表の下には、運用メモも添えます。この例なら「資料は送信前に課長が承認」「総務への会場条件の確認は予約前」「予約・送信の完了はその日にAさんと課長へ共有」「日程・予算の変更は課長へ相談」です。RACIの記号だけでは、連絡の時点までは決まりません。
役割の合意を会議で行うなら、会議アジェンダに「担当割り当てを共有」だけでなく「未確定のAと判断権限を決める」と書くと、何を決定する場かが伝わります。
RACI表を確認するときのポイント
まず一行ずつ、次の項目を確認します。
- Rがいるか:課長がAでも、資料を作るRがいなければ原稿はできません。
- Aが一人に定まっているか:「課長または総務」では、どちらの判断で進めるか曖昧です。判断対象を分けるか、正式な最終判断者を確認します。
- Cに相談内容があるか:誰の意見も必要という状態なら、何について誰に聞くかを分け、回答期限も決めます。
- Iに共有の必要性があるか:何の変更を知る必要があるかを確認し、通知の頻度・方法を絞ります。表のIを外すことと、必要な連絡を省くことは別です。
- 兼任と権限が合っているか:BさんのR/Aは、認められた範囲内の手配・送信に限ります。承認を受ける必要がある仕事まで兼任にしません。
次に列を見ます。一人へRが集中して予定どおり進められるか、Aが集中して承認待ちにならないかを確かめます。件数が多いだけで負担を断定せず、作業時間・期限・同時進行の有無も確認してください。
Aが判断できない、または不在で期限に影響する場合の連絡先も決めておきます。通常の相談と、権限を超える判断の依頼を分けたい場合は、エスカレーションの基準と伝え方が参考になります。
RACIでよくある失敗
| 失敗 | 困ること | 修正方法 |
|---|---|---|
| RとAを同じ意味で使う | 作成と承認の境目が分からない | 「作業する人」「結果を引き受ける人」を別々に問う |
| すべてのセルを埋める | 関与が不要な人まで巻き込む | 必要な役割がなければ空欄にする |
| Cを増やしすぎる | 資料が全員の回答待ちになる | 相談内容と専門性を対応させ、回答期限を決める |
| 関係者全員をIにする | 通知が多くなり、大事な変更が埋もれる | 会場確定・内容変更など、必要な情報と受け手を絞る |
| Aを複数人置く | 判断が食い違い、誰の決定で進むか分からない | 行の判断対象を分け、最終責任者を確認する |
| 本人の合意を取らない | 割り当てた人に時間や権限がない | 作業範囲・負担・判断権限を本人と確認する |
| 組織変更後も更新しない | 異動した人へ承認を依頼してしまう | 異動・担当変更・対象範囲の変更時に更新する |
| 作業粒度が大きすぎる・細かすぎる | 「準備一式」では分担できず、操作単位では更新が煩雑になる | 成果物や判断の区切りで行を作る |
表に更新日と更新担当を添え、担当変更のときは関係者へ知らせます。後任が仕事を引き受ける場面では、RACIに加えて未完了事項・資料の場所・次の行動を業務引き継ぎ表へ残すと、役割と具体的な作業をつなげられます。
RACIが向いていないケース
- 一人で完結する単純作業:判断者や相談先を分ける必要がなければ、通常の作業リストで足ります。
- 作業自体がまだ定義されていない:まず目的と成果物を決めます。曖昧な仕事へ記号を付けても分担は定まりません。
- 数分単位で役割が変わる細かな作業:操作ごとに表を更新するより、工程単位の役割と現場の連絡ルールを決めるほうが扱いやすい場合があります。
- 正式な権限・責任ルールが別にある:決裁規程や法令上の責任を、RACIで上書きできません。既存ルールを整理して見せる補助として使います。
RACIは役割を決める表です。何を優先するか、成果を何で測るか、起こり得る問題へどう備えるかは、別に検討する必要があります。
コピー用の空欄RACI表
R=実行、A=最終責任、C=相談、I=共有です。権限上問題がない兼任はR/A、関与が不要なセルは空欄にします。人A〜人Dを実際の名前・役職へ置き換えてください。
対象範囲:____から____まで
対象外:____
更新日:____ 更新担当:____
| 作業・成果物 | 人A | 人B | 人C | 人D |
|---|---|---|---|---|
運用メモ:Cに何をいつまでに相談するか/Iへ何をいつ共有するか/Aが判断できない場合の連絡先:____
行へ仕事を書き、RとAを先に決めてからC・Iを足します。Rがいること、Aが一人であることを横に確認し、負担と権限を縦に確認してください。最後に、記載した本人と役割を合意すれば、使い始められる1枚になります。
まとめ
まず、いま分担が曖昧な仕事を一つ選び、成果物や判断の区切りで行に書いてみてください。そのうえで「誰が進めるか」「誰が結果を引き受けるか」を決めます。必要な相談先・共有先を足し、本人が引き受けられる範囲と権限を確かめることが、RACI表を実際の仕事で使う出発点です。
