なぜなぜ分析で「確認不足」と書いて止まったら、何を、どの資料と比べ、どこまで確認したと分かるのかに戻ります。理由を思いついても、記録がなければ原因として確定せず、仮説と次の確認を残します。
この記事では、見積書の数量違いという架空の事務作業を使い、事実・仮説・不明を分けた記入例と、確認を依頼するためのメモを紹介します。「もっと注意する」と書き直すためではなく、分かったことを説明して調査を前へ進めるための整理です。
なぜなぜ分析は、5つの答えを埋める作業にしない
なぜなぜ分析は、問題について「なぜ」を繰り返して原因を掘り下げる方法です。ASQ(米国品質協会)の解説でも、問いかけは5回より少ない場合も、多い場合もあるとされています。
まず問題を具体的に書き、その理由の候補に裏付けがあるかを確かめます。「担当者が確認しなかったから」と考えた場合も、確認の記録がないことと、実際に確認していないことは分けて扱います。
- 事実:資料や記録などから、その範囲で確かめられること。
- 仮説:説明の候補。確かめるまでは、原因と断定しない。
- 不明:判断する情報が足りないこと。必要な確認を具体化する。
この3区分は、この記事で記入を整理するための実務上の分け方です。正式な社内様式がある場合は、その様式に事実と仮説の区別を残してください。
記入例の材料:承認済み数量12個に対して20個で送付した
以下の案件番号、日時、資料、人物はすべて架空です。勤務先の事例や、再発防止の効果を実証した事例ではありません。
問題:9月15日、案件R-014の承認済み依頼書には12個と記載されていたが、13:00に顧客へ送付した見積書には20個と記載されていた。
| 資料 | 確認できた内容 | この資料だけでは分からないこと |
|---|---|---|
| A:承認済み依頼書R-014 9月15日10:00 |
数量欄は12個。 | 作成・確認時に担当者がAを参照したか。 |
| B:実際に送付した見積書R-014 9月15日13:00 |
数量欄は20個。Aと一致していない。 | 20個が入力・転記された経緯。 |
| C:R-014の確認票 9月15日12:40 |
顧客名・品名・合計金額の欄があり、送付可の記録がある。数量を原本と照合する専用欄はない。 | 数量を実際に照合したか。何を見て送付可としたか。 |
| D:以前の別案件R-009の見積書 | 数量欄は20個。 | 今回Dをコピーしたか。数字が同じだけでは転用を確定できない。 |
ここまでで確定できるのは、AとBの数量が違うこと、Cには数量照合の専用欄がないこと、Dにも20個と記載されていることです。担当者の注意力や、今回の作成操作はまだ分かりません。
「なぜ」の答え候補を、記録と照合して書く
最初の問いは「なぜ、依頼書の12個と異なる20個が見積書に入ったのか」です。次のように候補ごとに整理します。一つの原因へ無理につなげるのではなく、成立する候補と、調査が必要な候補を分けます。
| 答えの候補 | 材料との照合 | 現時点の記入 |
|---|---|---|
| Aの数量欄に20個と書いてあった。 | Aの数量欄は12個。 | この候補はAの記録と一致しないため除外。別の資料を参照した可能性とは区別する。 |
| Dを転用して、20個を変更しなかった。 | DとBは20個で一致。ただし転用した操作の記録は未確認。 | 仮説。作成元と変更履歴を確認する。 |
| 数量を原本と照合せずに送付した。 | Cには数量照合の専用欄がない。ただし実際の照合作業は未確認。 | 仮説。照合の有無、参照資料、照合した項目を確認する。 |
| 担当者の注意不足だった。 | A〜Dには、担当者の注意の状態を裏付ける情報がない。 | この材料からは判断できない。入力・照合の具体的な操作へ問いを戻す。 |
続く問いも、前の答えが確かめられてから進めます。
- 「どの資料から20個を入れたのか」を確認する。Dを転用したことが分かれば、次に「数量を更新する段階で何が起きたか」を調べる。
- 「送付前に数量を何と照合したのか」を確認する。照合していなかったことが分かれば、次に「照合する担当・手順・参照元がどう決まっていたか」を調べる。
- 分からなければ、その先は未確認と書く。「忙しかった」「マニュアルが古かった」などの理由を、材料なしに足さない。
この例では、作成経緯も照合の有無も未確認です。したがって「転用ミスが真因」「確認票の不足が唯一の原因」と結論づける段階にはありません。
原因が不明でも、次の確認を依頼するメモは完成できる
原因の確定と、確認依頼の完成は別です。次のメモなら、分かっている範囲と、誰に何を確認するかを引き渡せます。
【対象】案件R-014の見積数量違い
【確認済み】Aは12個、送付済みBは20個。Cには数量の原本照合欄がない。Dも20個だが、今回の転用は未確認。
【除外した候補】「Aに20個と記載されていた」はAと一致しない。
【未確認】Bの作成元・数量変更の経緯、送付前の数量照合の有無と参照資料。
【次の確認】作成担当の田中さんに、Bの作成元と変更履歴を確認してもらう。確認担当の佐藤さんに、当日の照合項目と参照した資料を確認する。
【回答予定】9月16日15:00。記録が残っていない項目は「記録なし」と回答してもらい、記憶による説明とは分けて記載する。
【現在の結論】数量不一致は確認できたが、原因は未確定。回答を受けて仮説を見直す。
自分の案件に置き換えるときは、資料名・数値・担当者・回答予定を差し替えます。作成元が分からないなら「元ファイルを確認する」、照合の記録がないなら「確認票と担当者の説明を分けて確認する」など、必要な情報を一つずつ指定します。
記録なしの回答があっても、それだけで作業をしていないとは断定しません。追加で確かめられる情報がなければ、どこまで分かり、何が未確定かを残します。
対策は、確認した原因に対応する候補として検討する
たとえば数量照合の手順が決まっていなかったと確認できた場合、「依頼書と見積書の数量を比べ、参照資料を記録する」という手順は対策候補になります。ただし、この例の材料だけで有効性が証明されたわけではありません。
候補を試す場合は、社内で実施範囲を決め、数量不一致が減るかに加えて、照合にかかる時間や記入負担も確認します。すべてのミスにチェックを追加するのではなく、確かめた原因と対応するかを考えます。
原因と試す対策が整理できたら、業務改善提案書の書き方で、課題・改善案・期待効果を実施判断に必要な形へまとめられます。
なぜなぜ分析の提出時は、「確認不足」の言い換えよりも、問題を具体化したか、理由に裏付けがあるか、未確認事項と次の確認が分かるかを見直してください。
参考:ASQ「Five Whys」(手法の概要と、問いかけの回数について)。この記事の架空事例・記入区分・確認メモは独自に作成した実務整理です。
